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2013年12月03日

【この人に聞きました】祝、初展示会:秋山貴子さんの偉大な第一歩

〜〜〜 赤ずきんちゃん、気をつけて! 〜〜〜


2013年10月24日、「カフェ展示会」の招待状がユニコンに届きました。
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送り主の名前は「秋山貴子」さん。おおー、懐かしー!
秋山さんはね、今から7年前のある日、いきなりユニコン・ロンドン事務所に登場した〈飛び込み〉のお客さんで当時まだ19歳だったの。 

ツルピカ色白の童顔に乗っかっている ‘一途な’ キラキラ眼(瞬き少なし)。礼儀正しいせいなのか年寄り(私だよ)の威圧感に圧倒されているだけなのか、私が何か言うごとに「はい」「はい」と首をコクコクするだけ。なんか、採れたてのフレッシュ野菜みたい。素朴過ぎる!
とりあえずセントマのオリエンテーションに囲い込んだのだけど、オリエンテーションが始まって1週間後に再び事務所にやってきて「素晴らしいコースです!」と息せき切って言うの。何が?と聞くと、「私、コースの第一日目のドローイング授業であまりに感激して号泣してしまいました。私が求めていたのはこれだったって」

そりゃね、もちろんユニコンはオリエンテーション・コースが「超お得なお買いもの」だとマジで思っているし、だからこそPRしているんだけど、そこまで感激するか、フツー?(と口に出かかったけれど)感激を新たにしたのか眼元を赤くしている秋山さんを見て、さすがの厚かましい私も「いや、そこまで喜んでもらえて何と言っていいやら」と妙に照れてしまったことを覚えているわ。感受性が人並外れて濃い赤ずきんちゃん。「採れたて野菜」のイメージが変わりました。

秋山さんはその後セントマ のファウンデーションを経て同大の学部課程(ファインアート)に進んだのだけれど、毎年の授業料を大学に直接払うことを固く拒み続けたのね。ユニコン経由で払うと手数料を乗せなきゃいけなくなるから直接大学に払えと何度言っても「父がクレディットカードは信用できないって言うんです」と言い張るの。
彼女がユニコン事務所に姿を見せるたびに「ああ今年も支払いの季節になったのね。そして“父”は相変わらずクレディットカードを信用していないのね」と年月の流れの速さを味わったものでした。

その秋山さんがちょっとマイナーだけど〔吉祥寺〕のカフェで初展示とは! しかも留学時代の友人との合同展示で、その友人もユニコンの昔のお客さんだというじゃない。
これは行かなきゃね。

数日後、ユニコン視察団(2名)が着いたのは吉祥寺の駅から徒歩数分にある小さなビルの2階のカフェレストラン。「いらっしゃいませ」と迎えてくれたお店の人に愛想笑いを返しながら辺りを見回すと、四方の壁にこじんまりした作品群が飾ってある。おお、これか。
秋山さんはちょっと遅れてくると言うので「まーね、あーゆー田舎から出てくるんだもん、しかたないわね」と憎まれ口を叩きながら四方の壁につましく行列している絵をチェック。

ラッパの絵がいっぱい。それと植木鉢っていうかプラントの絵もいっぱい。
ラッパが秋山さんでプラントが友人(平山真澄さん)。
でも、あくまでラッパとプラントの行列。
この一連のラッパとプラントにはどんなメッセージがあるのかしら。

言うべきコメントが見つからなくて視察団は互いの芸術素養の貧しさを心で罵り合いながら無言に。
まー、ファインアートだし、セントマだもんね。本人が来たら説明してもらいましょう。

やがて合流した貴子さんと久しぶりの再会を祝い、まずは乾杯。アルコールはダメなんですという貴子さんはそっちのけで昼間だと言うのに視察団はボトルワインをほとんどラッパ飲み(ほぼオヤジだよ)(ちなみにランチ定食は濃いめの味付けの‘豚の角煮どんぶり’であった ★★)

まずは秋山さんの作品解説(本人による)をどうぞ。

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'空を見上げてごらん。眼には見えないラッパのような管が、君の眼からするする延びて、
      天に向かって広がらなかった?そして天が一杯、君の眼に流れ込みはしなかった?'
                          (安部公房「デンドロカカリヤ」より)

「多くの人がそうであるように、私もまた子供のころ空想世界と現実世界を自由に行き来する子供のひとりでした。それが成長に伴い、不思議と現実世界に留まる時間が長くなっていきました。これが大人になるということなのかもしれません。しかし時に、“眼には見えないラッパのような管が、天に向かってするする延びて、天が一杯、眼に流れ込むような瞬間”に出会う事は無いでしょうか?

私は人によって創作されたファンタジーやおとぎ話といった虚構の世界がとても好きです。それは、大人になると子供っぽいと笑われてしまうような虚構の世界の中にこそ事実を超えた真実を垣間見ることができるように思うからです。今回の作品はだいぶ荒削りではあったものの、“自然と人と人工とファンタジーが共存する世界”そんなことに思いを巡らせながら私の中に落ちて来た言葉のかけらを純粋に集めて編んで形にしたものです」

ユニコン:なるほど、安部公房の詩からインスピレーションを得たのね?(えーっ、安部公房と来たか。しかも‘詩’だとぉー!行きがかり上なるほどとは言ったが、若いときに安部作品に挑戦したものの理解及ばず挫折した過去を持つユニコンスタッフは茫然とするのみ)

「はい。何の変哲もない日常のなかのちょっとしたきらめき、そういったものが好きなんです。この詩もとても好きでそのイメージがずっと頭の中にあってそれをそのまま描いてしまおうと。言葉で説明しようとすると難しくて、絵をひとつの言葉として描いています。
言葉にならない言葉、言語になる前の言葉を描くというか、作品もひとつの言葉として作っています。
なんというか、現実にあるけれど現実にない、現実にはないけれど現実にある、ある意味、超現実的な。事実ではないかもしれないけど真実であることを表現したいです」 

ううう、覚悟はしていたけれど概念的すぎて難しい。こういう仕事をしているくせに、私、わかりやすい言葉で具体的に説明されているものしか理解できないんだよね。安部公房より伊坂幸太郎が何倍も好きだし、東野圭吾はその何十倍も好きだし。

「私は真逆ですね。言葉で表せないものが好きというか。自分のなかには色々あるんですけどね。その色々あるものをそのまま形にしているだけです」

(超現実的な生き方をしている視察団にはなかなか難解な時間が過ぎた。言葉ってむずかしい…)
ところで今は何をしているの?(しかたなくちょっと話題を変えてみた)

「発達心理学とか幼児教育にも興味があって、今は茨城のプレスクールで英語を教えています。
私、セントマ時代に『作品についてうまく言葉で説明できない』という悩みをチューターとよくしていたのですが、『言葉にならない言葉を表現したい』と悩む私に『発達心理学を勉強してみたら?』とアドバイスしてくれたチューターのことばがきっかけです。
発達心理学や、あと口承文芸にも興味をもって調べました。子供の言葉になる前の言葉は面白いなと思いました。
あと自然的に発生した物語も好きです。ひとつの物語を通して、書かれた通りのストーリーを楽しむことはもちろん、それ以外にもモラルやノウハウを親から子へ世代を超えて伝承できるという機能をもった物語、古典的にずうっと続いている物語には興味があります。どれも言語を超えた世界観みたいなものが共通していると思います。この分野は調べてみるととても面白くて、書籍からでなく実際に知りたいと思ってスクールで働き始めました。
純粋な、言葉がうまくしゃべれるようになる前の幼児の言語に実際に触れることができておもしろいです」

東京に出る予定はあるの?

「お金を貯めたら東京に出たいですね。アートをするには、東京がいいですよね」

多分。そして売れてお金になるということも大切。社会の認知度を高めるということなんだから。
ロンドン芸大のFine Art出身の先生も言っていたわ、「アーティストはもっと社会性を身に付けて自分を売る努力をすべきだ」って。秋山さんを目の前にして言うのもナンだけど、ファインアーティストってそうした社会性に欠けている人が多いじゃない。
生き方も価値観も違う人たちで構成されている世の中の人たちにわかってもらうためにはアーティスト自身も努力が必要だと思うの。だって仲間内だけで理解しあっても発展性が無いし、わかる人にわかってもらえばいいというのは「グローバル」という宿命から逃れられない21世紀に生きるアーティストの考え方としては傲慢だと思うのよ。

「完全にそうですね。ファインアーティスト達はシャイな軍団なので。ファインアートはアーティストのためのアートだって言われちゃっています」

イギリスは新しい才能を世界に輸出するのにとても熱心な国だから若いアーティストが発掘されやすいけれど、日本のアート業界の人たちってすでに名前が売れていて金になりやすいアーティストにしか興味を示さないでしょ。だから無名なアーティストたちは自分から発信していくしかない。たとえば、稚拙なアイデアだけれど、「ブログ(っていうの?)」みたいな現代コミュニケーション武器を駆使して国内外のコンタクトを増やすとか、ロンドン芸大の卒業生グループと組んで集団力でアピールするとか。

「そうですね、他のカレッジの卒業生たちとも組んで10人くらいで大きな展示会をやりたいね~という話が今あります」

アーティストって金の計算が弱くて(だから‘純粋’と表現されがちだけど)それはいけない。お金の計算ができる営業能力のある人と組んで活動しなさい。実はセントマはここ数年前からそうした方面の大学院課程にめちゃ力を入れてるのよ。
‘MA Innovation Management’とか‘MA Creative Practice for Narrative Environment’ とか、アート実技とは何の関係も無いマネジメントのコースなの。で、受講生のほとんどが美大以外の出身の社会経験者で占められているのが特徴で、早い話、ビジネス能力に乏しいアーティストと企業プロジェクトの橋渡しをできる人材を育てようってことらしいわ。
で、入学基準のIELTSスコアが何と7.0よ。そんだけあったら(フツー)ロンドン大学かオックスブリッジに行くだろって思うんだけど、これがもう大人気。今はそういう世の中なのね。
だからね秋山さん、これからの世界に自分の足跡を付けようって言うのなら、アートは好きだが‘創る側’ではなく‘売る側’で活躍できてカネの計算に優れた人材を取り込まないと。そのためにはまず合コンに目いっぱい参加しないとね。
(カネが絡んだ話となると俄然饒舌になってしまうユニコン視察団なのであった)

「はい、地味にがんばります。ありがたいことに、セントマ時代のチューターがとても優しい人で、卒業後も色々な人に私の作品を見せてくれていて今でもメールが届くんです。それはとても助かっています。あと、絵本を描いてって頼まれているので、そういうこともやっていきたいなーと思っています。
次回は小さくても作品を出して、ま、こっからですかね」

だめよ、地味一筋じゃ。ユニコンのHPも利用してくださいね。

おーっと。この展示会は貴子さんの友人の平山真澄さんとの合同展示会であった
(ごめんね、平山さん)。
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平山さんはキャンバーウェルのファウンデーション修了後、チェルシーカレッジの学部課程(ファインアート)に進み、秋山さんと同時期に卒業しました。


当日のカフェレストランでお会いすることはできなかったけれど、後日、例の「プラント」作品についてのコメントを送っていただきました↓


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「私は自然・人・人工物が現代社会の中でどの様に共存しているかという事に興味があります。イギリスから帰った後、東京の街に敷き詰めてある植木鉢に眼が留まる様になりました。切り取られた一部の自然が人工物と共存する事を知る事によって自分の興味を深めていけそう…と思ったことからこの作品づくりが始まりました。
今回の展示ではひたすら描いた植木鉢達を展示しましたが、この経験とアイデアを更に育てていきたいと思っています。

異国での生活と勉強は大変だったけれどかけがえのない経験をしたと思います。
大学の授業では週1回のクラスやレクチャーと選択授業を受けながら自分の興味の向く方向にどんどん挑戦していける自由な時間と空間がありました(その分、時間の自己管理を求められたけれど)。

チェルシーには哲学・理論を学びながらディスカッションを通してお互いを高めていくという独自の方針があります。興味や関心がある事に対して「それはなぜ?」と問いかけつつ、そのアイデアを更に進展させて行くという校風です。

私はそれまでは興味や関心があっても「なんとなく」で終わらせてしまい、考え抜くという習慣がありませんでした。それがチェルシー時代を通して多少なりとも習慣づけられたように思います。
(物理的には)あまり作品は残せませんでしたが、自分の興味の的が何なのか、どんな形の制作プロセスに心惹かれるのかということを知ることができました(日々変わる部分もありますが)。それが卒業後の今、とても役立っています」

投稿者 unicon : 12:43

2009年01月30日

【この人に聞きました】File9.川崎智子さん

Chelsea卒業生の作品が図書館に貯蔵されました

チェルシー図書館に貯蔵された川崎さんの“毎日の笑いの本”『Laughter in Everyday Situations』昨秋2008年11月にChelsea College Of Art and Design(Chelsea、チェルシー・カレッジ)MA Graphic Design Communicationを卒業した川崎智子さんの製作した本がチェルシー・カレッジの図書館に貯蔵されました。
「本当に楽しかったんですよ、私。11ヶ月ほんとに充実してあっという間でした。」といって卒業の報告にきてくれた川崎さんに、作品のこと、コースのこと、ロンドンでの留学生活のことを聞きました。
 
日本の芸術大学を卒業後、「英語が話せるようになりたいし、ヨーロッパには好きなアーティストがたくさんいるから」と留学を決意した川崎さん。もともとはユニコン東京事務所での面接でセント・マーチンズ(CSM)ファウンデーションの入学許可をもらって渡英しましたが、渡英後紆余曲折を経て、結局ファウンデーションではなく同じCSMのGraphic Portfolioコースへ進学しました。1タームGraphic Portfolioを受講したあとは、「せっかく日本で大学出てきたし、こうなったら大学院に行きたい」という気持ちが高まり、そのためにまず英語をきっちり勉強することにしてロンドンの英語学校へ入学しなおしました。また、同時期に花屋さんでのバイトを始め、これを会話の練習や友人作り、英国人・ヨーロッパ人の花の好みや色彩感覚などを学ぶことに役立てました。お店で使うクリスマスやバレンタイン用のグラフィック・デザインを担当させてもらうなどバイトを作品作りにも活かして大学院に出願、合格して晴れてチェルシーに入学したのは2007年秋でした。

本の中身「コースは17人、いろんな国からいろんなバックグラウンドの人が来てました。もともと経済学者だった人、他分野のデザイナー経験者、ライター出身の人など、グラフィックだけに限らない背景の人が集まってとても刺激的でした。チューターたちも、若いのにとってもセンスがいい30代の金髪女性コース・ダイレクターのほかに、彼女のRCA(英国王立美術院)時代の仲間が3人ついて、常に一つに限定されないコメントやアドバイスを得ることができました。また、この先生たちのコネが広いので、“こういう人が好き”とデザイナーやアーティストの名前を挙げると、“あぁ、じゃあ次のレクチャーに呼んであげるわね”と軽~く言って彼らをゲストとして呼んでくれる、なんてこともたくさんありました。その他にも、有名アーティストによる一日ワークショップも4回あったし、こんなにいろんな人に来てもらっていいの?!と思うくらいたくさんのアーティストやデザイナーから刺激を受けることができました。」

9月のwork in progress showのときのバナーとスライド・ショー
「チェルシーでは横のつながりも強くて、一度、私たち(グラフィック)とインテリアとキュレーションの3コースの大学院生たちが合同で架空のエキシビションをデザインする、というプロジェクトもありました。各チーム6~7人でやったんですけど、これは「もうコラボってやりたくないカモ・・・」と思うくらい大変でした(笑)。でも、実際に働き始めたらこういうことをするんだ、というのが体験できてよかったと思います。」

「英語が弱いこともあって、はじめのうち先生は私が何をやりたいのかわかってくれてなかったみたいだけど、最後のほうではかなり理解を示して褒めてくれるようになりました。最後に製作した“毎日の笑いの本”『Laughter in Everyday Situations』はコース・ダイレクターに気に入られて、チェルシーの図書館に貯蔵されました。」

Repetitive Chairとロシアンドール「ショーは9月と11月の2回やりました。9月はwork in progress showといって途中発表のようなもの、11月はprofessional showといういわゆる卒展です。9月のときには、一人一枚ずつ三メートルのバナー(自分の名前や作品の説明などをわかりやすく記載したもの)をデザインして、そのほか今時分たちが作っているものを途中展示しました。私の場合は“笑い”について研究していたので、バナーには心理学の本の中でみつけたフレーズの引用なども加えました。そして、その隣に自分が面白いと思った毎日の情景を心理学の理論に基づき区別わけしてスライド・ショーにしてみました。その理論のなかのひとつ「“繰り返す“ものは笑える」を使って、Repetitive Chair(繰り返しの椅子)を作って、それと一緒に人間のサイズなどを遊んでみました。さらに、このRepetitive Chairの上には、みんなに繰り返しのアイデアをよく理解してもらえるようにロシアンドールを置きました。」

11月のprofessional showの風景「9月のショーが終わると論文の締め切りがあり、そのあとすぐ11月にprofessional show(卒展)がありました。9月のショーで毎日の笑いのスライド・ショーが好評だったので、それにエッセイを加えてA3サイズの本にしました。これがさっきお話した毎日の笑いの本『Laughter in Everyday Situations』です。あと、毎日の笑いから得たものをヒントに、いろいろな家具を道で拾ったものを使って作りました。このプロジェクトには、London Object Trouveという名前をつけました。これも一冊の本にまとめて展示しました。この写真で、手前にある家具は“日々の笑い”で得たもので作った家具です。たとえばこの椅子にはInversion Chairという名前をつけました。これは「逆さになっているものは笑える」という心理学の法則に従って作ったものです。コーヒーテーブルの上に置いてあるのがLondon Object Trouveの本です。」
 
 
 
川崎さんの作品の写真を見て、思わず「くすっ」と笑った方も多いのではないでしょうか?かくいう私もその一人で、「なるほど、これが“笑いの研究”か!」と膝をたたきました。川崎さんから「こういうものを作ってる」という話だけを聞いていた製作過程当時は「そうか。ウーン、わかるような、わからないような・・・」と漠然と考えていましたが、やはりアート&デザインは「百聞は一見に如かず」、作品を見たらすぐに川崎さんの研究してきたことと製作意図がわかりました。こういう一見なにげなく見える「笑い」について、心理学の本なども使って徹底的にアカデミックなリサーチをし、さらにビジュアルな作品にしたのですからすごいですね。
 


Repetitive Chairs  Repetitive Chairs  Repetitive Chairs

 
毎日の笑いの本“にも入っている、Repetitive Chairをつくるきっかけになった映像
「英語のサポートもとてもしっかりしていて、不安だった語学面もなんとかできました。私は入学時に皆で受けたテストでDyslexiaと判断されたのですが、チェルシーにはDyslexia学生をサポートするための専門スタッフが常駐していて、図書館でのリサーチなどでかなりヘルプしてくれました。一対一で毎週ついてくれて、アートの知識も豊富な人でした。他にも、留学生の英語のサポートをしてくれる人もいて、最後の数ヶ月は週に一度チェルシーに来てエッセイを見てくれました。この人はUAL(ロンドン芸大)本部のビルに常駐しているので、この週一の時間以外にも、必要なときにオフィスを訪ねて見てもらうことができるようになっていました。」

Dyslexiaというのは、知的能力・学習能力の脳内プロセスに全く異常がないにもかかわらず書かれた文字が読めない、読めても意味が理解できないなど、「“文字”と“意味”単独ではそれぞれ理解できるのに、その二つをつなげることができない」現象のことをいいます。「日本語使用においては現れない」という説もあり、英語圏に留学してはじめてDyslexiaであることが分かる人がいるなど、日本国内ではなじみのない現象ですが、欧米ではひろく一般的に認知されています。とくに英語圏では10人にひとりはDyslexicであるという統計もあるほどで、それゆえ教育の場におけるDyslexia対策もすすんでいます。またDyslexiaの人というのは映像・立体の認識能力が優れているといわれ、工学や芸術分野で優れた才能を発揮する人が多いため、芸術大学の学生間では自然とDyslexiaの割合が高くなります。そのため、ロンドン芸大でも専門のサポート体制が行き届いているのでしょう。

Inversion Chair「大学生活はとても充実していて、本当にチェルシーのMAに行ってよかったと思います。」という川崎さんに、留学して変わったところはありますか?と聞くと、「予定をしっかりたてるようになったことと、はっきりものを言うようになったところです。それに、人の作品を見て単に“カワイイ”などの抽象的な意見でなく“ここがいい、悪い”など、冷静に客観的に意見が言えるようになったことですね。」という答えが返ってきました。今後の予定はまだ未定とのことですが、デザイナーとして活躍する川崎さんの姿が今から楽しみです。

 
 
 
  
<写真解説(上から)>
1. チェルシー図書館に貯蔵された川崎さんの“毎日の笑いの本”『Laughter in Everyday Situations』
2. 本の中身
3. 9月のwork in progress showのときのバナーとスライド・ショー
4. Repetitive Chairとロシアンドール
5. 11月のprofessional showの風景
6~8.Repetitive Chairs
9.“毎日の笑いの本“にも入っている、Repetitive Chairをつくるきっかけになった映像
10.Inversion Chair

投稿者 unicon : 10:57 | コメント (0)

2008年12月08日

【この人に聞きました】File8.照井亮さん

CSM卒業生がAERA Englishの特集に登場



 Central Saint Martins(CSM、セントラル・セント・マーチンズ)卒業生の照井亮さんが、11月23日発売の「AERA English 1月号」内の特集「海外で挑戦する日本人」に取り上げられました。


 照井さんは日本で美大を卒業後、数年のデザイン事務所勤務を経て2005年にユニコンを訪れ、CSMのMA Creative Practice for Narrative Environmentに出願し合格。翌2006年夏に渡英しました。2年間の大学院コースを2008年7月に卒業し、現在はLumsden at Small Back RoomというRetail & Environment(商業空間デザイン)を専門とする英国のデザイン・コンサルタント会社に勤務しています。学生時代にはじめたインターンがきっかけでそのまま就業することになり、現在インターン期間を含め1年半勤務しています。


 現勤務先ではインテリアや空間デザインを担当する照井さんですが、日本の大学での専攻は情報デザインだったそうで、学部時代とは全く畑が違います。そのことについて質問すると「たしかに僕はもともと2D(平面)デザイン出身ですが、東京で勤めていた会社がインテリア、グラフィック、プロダクトなど多岐分野をカバーするいわば“何でも屋”だったので、そこで幅広くいろいろなデザイン分野の仕事を経験しました。そこでもっと大きな視点でデザインというものを見て仕事を全面プロデュースできるようになりたいと思うようになったんです。それが留学を決意したそもそもの始まりで、3D(立体)デザインに転向するためにロンドンに来たんですよ。なので、日本での社会人時代の経験と留学で学んだことがちょうどうまくつながって今に至る、と思ってます。」と語ってくれました。


Final Workの写真


学校での作業風景
 「MAで得た最大の財産は人脈です。コース参加者のほとんどはプロとして何らかの仕事を経験してきた人たちでした。スクリプト・ライターやキュレーターなど、デザイナーだけでなく芸術分野からさまざまなバックグラウンドの人が集まっていました。また、そういう他分野の人たちと一緒にプロジェクトをすすめていくことで、より大きな枠組みの中での”デザイン“というものが分かるようになったことも大きな収穫でした。」という照井さん。現在の会社でのインターンも、コースワークの一環として教授の紹介ではじめたそうで、「教授は各界に広いコネクションを持っている人で、プロジェクトやリサーチをすすめる際にとても役立ちました。ある点で行き詰ると必ずその道の専門家を紹介してくれたおかげで、学校の外にも皆それぞれこの先進んでいきたい方向にマッチした人脈を築くことができました。」とのこと。

Final Presentationの模様 
ところで照井さん、コースでの一番の泣き所はやはり“英語”だったようです。ブリティッシュ・カウンシル東京の英語コースと、ロンドン芸術大学(UAL)がコース開始前の留学生を対象に行う夏の英語予備校を経てMAをスタートした照井さんですが、それでもクラスメイトとのコミュニケーションには苦労したそうです。大学院課程ともなると、“クラスにたった一人の日本人”という状況も決してめずらしくありません。照井さんの場合には幸いにもあと一人日本人学生がいたそうですが、その彼女はBA(学部課程)から上がってきた人。渡英したての照井さんよりはずっと“現場慣れ”していました。こんな環境のため大学院コースの開始当初は勉強の大変さとストレスでげっそり体重の落ちた照井さんでしたが、それでも奮闘していくうちに同級生たちと互いに刺激しあえる関係を築けるようになりました。「英語に自信があるかって言われたら今でもないですよ、全然。大変で!」と謙遜しながらも大学院を無事に卒業し、英国でデザイナーとして勤務しているのですから、努力が確実に実を結んでいるのに違いありません。「卒業制作提出直前の夏場は今考えると本当に地獄でしたね。6時にインターン先の勤務が終わって、それから夜の11時まで開いているUAL本部ビルの学習スペースに篭ってひたすら作業・・・という毎日でした。週末は別のアルバイトもしていましたし。」と追い込み時期を振り返り、「ずっと走ってきたので、今年の冬は日本に里帰りしてのんびりするつもり」と、やっとリラックスできるという喜びをにじませていました。




 「今勤めている会社は、メインの顧客がロンドンの主要美術・博物館という、かなり大きな仕事をしている会社です。なので、そこでもう少しいろいろな経験を積んで実力とハクをつけてから日本に帰って自分のやりたいことを自由にやろうと思っています」と今後の展望を語る照井さん。どのように実現していくのか、今から楽しみです。




 

AERA English: http://publications.asahi.com/ecs/13.shtml

Lumsden at Small Back Roomホームページ: http://www.ldp.co.uk





<写真解説(上から)>

1.照井さん

2.Final Workの写真

3.学校での作業風景

4.Final Presentationの模様

投稿者 unicon : 12:47

2008年08月29日

【この人に聞きました】File4. H.Yさん

Chelsea卒業生が欧州系の国際アパレル企業日本立ち上げメンバーに

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 Chelsea College of Art and Design(チェルシー・カレッジ)卒業生のH.Yさんが、欧州系アパレル大手の日本事業立ち上げのマネジメント・メンバーに採用され、ヴィジュアル・マーチャンダイザーとして就業しています。

 本人の希望により、彼女の本名や社名をまだ公表できないのが残念ですが、日本への上陸が待ち望まれていた大手国際アパレル企業で、今後の発展が楽しみです。

 Hさんは2006年、ChelseaのGraduate Diploma in Interior Designに入学し、翌2007年夏に帰国しました。東京の大学で英米文学科を卒業した後、主にアパレル・繊維業界で就業経験を積んだHさん。そのなかでヴィジュアル・マーチャンダイザー(以下VM)という仕事に出会ったのが彼女の転機になりました。「前職でVMを経験したとき、これが天職だと感じ、VMとしての自分をもっともっと高めたいと思いました。そのために自分に足りないものを少しでも補うための努力をしたいと思い、考えた末に留学・退職を決めました。それからユニコンとの出会い、念願だったアート&デザインの勉強と語学力を高めるための留学をし、現在に至っています。」と振り返るHさんがロンドンへ渡ってきたのは31歳のときでした。

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 「あの留学は本当にかけがえの無いものだったと誇りに思います。IELTS、極貧、課題etc…よくやったなーって思いますよ!」という一年間を終えて帰国した後、就職先を探そうと動き出したときに、日本事業立ち上げのマネジメントスタッフを探していた現在の就業先との出会いがありました。当時はまだ日本国内にオフィスもない段階で、面接する場所すらおぼつかないという状態だったそうです。そんな「初期の初期」段階からVMとして立ち上げに参加することになったHさん。入社と同時にヨーロッパをはじめ世界中を研修で飛び回っていましたが、今月やっと日本へ戻り、日本1号店のオープン準備に突入します。

 「今でも、人に感想を聞かれると一言で”大変だった“と答えますね(笑)。決して笑って”楽しかったよ~“なんて言えませんからね~」というHさんですが、そんな諸々の試練を乗り越え、「かけがえのない留学生活だった」と言い切れる今、こんなコメントを寄せてくれました。

 「今回の留学を経験し、“思い続けていることは、ちゃんと叶えられるんだな”と実感しました。“気持ち”は勇気につながって、それは“思い”を形にしてくれる。そんな人生をこれからも歩んでいきたいって思います。」

 ところで、Hさんの「大変だった、笑えない」でも「かけがえのなかった」留学生活とはどんなものだったのでしょう?Hさんが留学時代の様子を語る体験談、興味のある方はこちらを訪れてください。

 
 
 

<写真解説>
1.課題をすすめるにあたり、実験とそのスケッチを何度も行う。これはそのmodel sketchの一部。
2.最終のプレゼンテーション・ブックの一部。

投稿者 unicon : 12:16

2008年08月04日

【この人に聞きました】File2. 池田中也さん

CSM卒業生がRoyal Academy Summer Exhibitionに出展中

RAでの展示風景

 Central Saint Martins(CSM、セントラル・セント・マーチンズ)卒業生の池田中也さんの作品が、英国Royal Academy of Arts(RA)で開催中のSummer Exhibition 2008にて展示されています。RAのSummer Exhibitionはロンドン美術界の夏の風物詩で、世界最大規模の現代美術の展覧会です。なんと、1769年から中断することなく開催されていて、今年で240回目を迎えます。有名・駆け出し問わず幅広い作家の作品が集められ、今年も1200以上の作品が展示されています。

 池田さんは2004年、ロンドン北部の高級住宅地Highgateへ降り立ち、St Gilesカレッジで英語の勉強をスタート。その後、CSMのGraphic Portfolioコースを経て翌2005年に同カレッジのMA Communication Design(Graphic Design)に入学しました。2年間という英国では珍しい長丁場の大学院コースでしたが、2007年に卒業し、現在に至ります。留学のきっかけからここまでの道のりを池田さんにインタビューしました。

 池田さんは日本で広告代理店のアートディレクターとして働いていましたが、職を辞して留学しようと思った動機は何ですか?

 約5年間働いて、ある程度、仕事の仕方が分かってきたんですね。また、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、日本社会の閉塞感はデザインの分野にもあまり良い影響を与えていません。さらに日本のデザイン界、アート界含め「海外」「世界」というものに憧れつづけているわけで、これは自分も同じだったんです。そこで、実際に肌でそれらを感じてみたいというのが一番の理由でした。また、自分のなかのデザインの“引き出し”を増やす意味でもありました。

Graphic Portfolioコース時代の作品


 語学学校の後、まずCSMのGraphic Portfolioコースに進みましたね。
 はい。初めて西洋の「クリエイティブ」の考え方を垣間みることができて、とてもおもしろいコースでしたね。ビギナーから経験者までさまざまなレベルの生徒が受講することができますが、2週間で一つの作品を作らなくてはならず、とてもハードなコースでした。でも、その分ためになったと思います。

 私は日本の美大も卒業していますが、基本的にイギリスでも、コンセプトの組み立て方などは日本のそれと変わらないと思います。しかし、コンセプトの“切り口”が違うというか、物事を違う方向から眺めてみるというか・・・。それでいて、表現手法はプリミティブだったり。全然ハイテクでなく、手作業を多用するのです。それはセントマーチンのスタイルとでも言えるのかもしれませんが、さすが、発明の国イギリスといった印象でした。故に、デザインにもかかわらず、難解な作品も多いですね。この独特のスタイルを理解するまでは少し苦労しました。

 次の大学院コース、MA Communication Design (Graphic Design)はどうだったのでしょう?
 MAでは、BA(学部)と違って自分で課題を決めなければなりません。さらにそれに対して大量のリサーチを一週間毎のチュートリアルの際に持って行かないといけませんでした。時には、辞書の厚さになるようなリサーチを求められる事もあります。それを西洋人はすんなりやって来る事が驚きでしたね。この年のクラスメイトは多くて、100人弱、国籍では38カ国と言っていました。そういった中で、彼らの作品や、モノを作る事に対する姿勢には敬意を感じずにはいられませんでしたね。クラスメイトの顔ぶれは、もちろんMAということもあり、既にデザイナーやフォトグラファーの経験をしてきている生徒が多かったです。年齢は20代後半の生徒が多かったですが、なかには40歳ぐらいの生徒もいました。わたしたちの作品は以下から見る事ができます。
http://www.net-arte.com/macd2007/index.asp

英語についてはどうでしたか?池田さんは「社会人経験者=英語に久しく触れていない」ということで苦労したのでは?

 とても(笑)。語学学校時代に基本的な事は習ったとはいえ、美術学校となると、それ独特の言葉や表現がありますから大変です。そういったアート英語は、Graphic Portfolioコースで次第に学ぶことができたと思います。が、それでも作品のコンセプトを説明する際はさらに、広く一般的な言葉まで憶えないといけないし、さらに複雑なコンセプトとなると、もう大変で(笑)。日本で大学に入ってしまうとほとんど英語の勉強などしない上、私の場合はさらに社会人歴が5年あるので、渡英してからの英語学習にはかなり苦戦しました。なので、いま留学を考えている方は、受験勉強をしたときのように地道に英語に向きあったほうがいいと思います。

speakers corner

 プレゼンが大変なあまりマッシュルームヘアのかつらを被って緊張を紛らわしたとか(笑)?
 ええ(笑)・・・って、それは冗談ですが。マッシュルームヘア+スーツ+白手袋の格好でハイドパークの“スピーカーズ・コーナー”でパフォーマンスをしたのです。それもGraphic Portfolioコースの課題の一環で、プレゼンテーションの練習の一つでした。結構笑ってもらえたので一安心しましたが(笑)。

MAの卒業作品

 MAコースでの池田さんの作品について教えてください。

 作品の大きなテーマは「ギャップ」です。私がイギリスに来て初めて感じたのはそれでした。文化間のギャップであったり、世代、ジェンダーのギャップであったり。もしそのギャップを埋める事が可能ならば、我々のコミュニケーションはさらにスムーズなものになるのではないか、というのが起点です。結局それは不可能、という結論にMAで書いた論文で行き着いたのですが・・・。かといって、それは悲観的な結論ではなく、お互いが近づくためのコミュニケーションの媒介としてデザインやアートが存在すべきだし、それによってあらゆる隔たりを超える可能性があると結論づけました。私の通ったセントマーチンのMAコースでは論文を書いたあとに作品を作るのですが、この方法は頭の整理に大変役立ちました。作品では、最終的にその「ギャップ」そのものを表現しました。このシリーズは卒業した今も制作を続けています。ちなみにその後、MAの卒業作品をUALのコレクション(ボンドストリートのUAL本部4Fに常設展示)に入れていただきました。

作品

 MAコースを終え、今年は展覧会の機会がぐっと増えていますね。
 はい。RAのSummer Exhibitionを皮切りに、Jerwood Drawing Prizeにもノミネートされました。とくにアートビジネスに於いての話ですが、日本の美大と違って、こちらの大学は社会と“近い”と思います。美大以外の大学もそうなのかもしれませんが、特にアートの分野になるとより近いと感じるのです。このようなexhibition(展覧会)で購入者を見つけられることはもちろん、大学の卒展でさえ作品の売買は“普通”なんですね。世界的な経済の視点からみても、ロンドンにはアート購入者やギャラリーが多いし、それより以前に、西洋の人々は個人レベルでアートを購入して行くことが驚きでした。実際卒展でも、展示をみた学生から私の作品を買いたいというオファーをいただきました。こうして一般の人々が西洋のアート界を支えているのを目の当たりにして、「いい環境だな」ととてもうらやましく思えました。そういう意味で特にアートを志す人であれば、ロンドン留学を強くお勧めしますね。

 
 
 


<池田さんの展覧会情報>
●Royal Academy of Arts Summer Exhibition (開催中~2008年8月17日)
  http://www.royalacademy.org.uk/exhibitions/summer-exhibition/
●Jerwood Drawing Prize 2008(現在、賞は審査段階 2008年9月17日~10月26日)
  http://www.jerwoodspace.co.uk/
●Patrick Heide Contemporary Art(2008年10月予定)
  http://www.patrickheide.com/home_en.php
●London Art Fair(2009年1月)
  http://www.londonartfair.co.uk/page.cfm

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