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2010年08月17日

学校に行ってみた
Chelsea College 小泉夏さん

          ●●●●● 学校に通いたくなる学校 ●●●●●


 今から約百年前、設立された土地の名をそのままいただいて学校名にしちゃったチェルシーカレッジ。2005年にテームズ河畔(Tate Britain隣)にお引っ越しとなったが名前はそのまま持ってきた。‘芸術家たちのカルチエ・ラタン’というチェルシー・スピリットと共に。
 チェルシー・カレッジ誕生の由縁は1851年に開催された「ロンドン万国博覧会」にまでさかのぼる。今も大盛況の「万博」のご先祖様である。産業革命でイケイケ状態の富にあふれた英国で開催された世界初の万博は世界中の話題をさらった(って世界史の教科書に書いてあった)。この万博に出展する作品を作るためチェルシー地域に作られたスタジオやワークショップに芸術家や職人たちが移り住み、やがて多くのアーティストや文人を魅了する芸術家の街として知られるようになる。アガサ・クリスティ、オスカーワイルド、ターナー、ロセッティなど時代を代表するキラ星たちがそうした風に惹かれてチェルシーの住人となった。
 そんな土壌を背景に1895年、South-Western Polytechnic(現チェルシー・カレッジの幼名)が設立され、Fine Art学科から多数のエリートが輩出されるようになる。ヘンリー・ムーア、アンソニー・カロ、アニッシュ・カプーア、ジュリアン・オピーと、言い出せば「あれもこれも」と枚挙にいとまがない。
 近年政治的で過激な作風が持て囃されてきた感がある中でチェルシーはいつの時代もチェルシーである。すなわち、品格がありながら主張に筋が通っている―「静かに語る」作品を作るタイプのアーティストを育ててきた。そういうおっとりした校風が、学生の間では「癒し系」として高く評価されている。今日ユニ調査員をガイドしてくれるナッちゃんは「チェルシーを一言で表現すると?」の問いに「学校に通いたくなる学校」と即答した。和やかな雰囲気で学校生活をエンジョイできるから、だそうです。



今日の随行ナビゲーター : 小泉夏さん(ナッちゃん)
CSMのオリエンテーション・コースを終了後、Chelsea Collegeのファンデに進学。居心地がいいので他のカレッジに行きたくないが、やりたい専攻がここにはないのでしぶしぶ旅立つことに。LCFのBA Fashion Accessoriesのオファーを持っている。


 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
目印はテートブリテン
地下鉄Victoria線のPimlico駅から徒歩5分のChelseaカレッジ。ひまな学生の身であればユニコン事務所前から出ているPimlico行きのバスに乗るのだが、忙しいオトナである調査員は時間短縮のために地下鉄Warren Street駅から出発。
Pimlico駅からは「Tate Britainはこちら」の標識に従って歩けば楽々到着だと思っていたのが間違いだった。不親切な英国の標識は矢印の方向が大雑把。お前が指してんのはどっちの道だ?
仕方なく動物的勘でエイヤッと路地に入ったら見事Tate Britainに遭遇。で、その隣にある時代物の庭つき豪邸風の建造物がチェルシー・カレッジなり。

 


向かって右がTate Britain、左がチェルシー・カレッジ。まさに隣人どうし。こんな素敵な公園もあるお上品エリア。

 


中庭で待ち合わせ
ナッちゃんとはチェルシーの美しい中庭で待ち合わせ。作業中の教室から出てきたナッちゃんのおしゃれなミニスカ姿に「まっ、かわいい服vでも作業で汚れるでしょ?」と早速よけいな心配をする調査員。でも、「えっ、そんなことないですう。チェルシーの女の子たちはみーんなこぎれいな格好してますもん」とナッちゃん、調査員のビンボー性をあっさり一蹴。ふーん、ウィンブルドン・カレッジに負けず劣らずお嬢が多いのね。


ところでこの中庭中央にある小さい正方形の芝生ゾーンがカレッジ随一の人気スポットとのこと。「ちょっと暖かくなるとここでランチしたりタバコを吸おうとする人間が集中するから、夏場は特に人でぎっしり。外から見るとそこだけ異常に人が集中して変な光景ですよ」


学食へGO
とりあえず恒例の腹ごしらえから、と学食に向かう道でナッちゃんのお友達に遭遇。ナッちゃんに負けず劣らず着飾った中国系の女の子たちだ。中国の血が流れているナッちゃんは彼女たちと中国語・英語交じりでキャッキャと会話。外国語ができるって便利だよね~。
「あの子たち、久しぶりに見たなぁ、全然学校来てないし。っていうか中国人は学校すぐサボるんだよね」とつぶやくナッちゃんと学食にイン。ランチにはまだ早い時間なのに活気があってけっこう人が多い。「ここがお気に入りスポットっていう人が多いのでいつも賑わっています」だって。人通りの多い一階の入口脇にあるので、スタジオやワークショップに行く前に「ちょっと寄っていこう」という人が多いのね。Eat and Goってわけね、なるほど。インテリア&空間デザインが強いチェルシーならではの策略的コンセプトか、というのは深読みし過ぎ?


 


学食メニュー
食堂もとてもモダン。日替わり定食のほかにサンドイッチやサラダも売っているが、金曜日の日替わり定食はFish and Chipsと決まっているそう。「けっこう美味しいですよ、全体的に味は濃い目ですが。かと思えば、塩が全然足りない日もあったりで、こんなテキトーなところがいかにもイギリスって感じです。私の一番のお気に入りは、何を隠そう今日のメニューのソーセージ&マッシュです。しかも今日は早く来たからか、いつもよりも量が多めでラッキー!逆に一番嫌いなのは羊系です。臭いんだもん。他にはBreakfast Paniniっていうのがあって(お昼にも買えるのになぜかBreakfastという名前がついてる)それもおいしいです」って。ふむふむ。けっこう豊かな食生活を送っているのね。


 

という次第で本日のチョイスは二人揃ってソーセージ&マッシュ。


何人(なにじん)でもフレンドリー
食事中いろんな人達が「ハァイ、Natsu~」と声をかけてきます。顔が広いのね。しかもその中にはちゃんと地元のイギリス人学生も含まれていて、これは他カレッジのファンデではあまり見ない現象。ナッちゃんによると、「チェルシー・ファンデの学生はセントマと比べて全体的に若め。そして絶対にロンドン芸大で一番フレンドリー。意外に中国人が多いけれど、ほとんどが小さいうちにイギリスのボーディング・スクール(寄宿制学校)に送られてきた子だから中身はそんなに‘中国人的’じゃない。ちらほらいる日本人も海外育ちとかハーフとかが多い。ケニアで育った子もいるし。私たちユニ学生みたいに日本から直送ってのは意外と少数派だね」。この分析ぶり、ナッちゃん、キミは将来立派な評論家になれるよ。


スタジオ巡り
詰めるだけ詰め込んで(腹に)スタジオお遍路の旅へ。校舎の外観は年代物だが改装したての内部はがっつりモダンです。スタジオはファインアート、ビジュアルコミュニケーション、ファッション&テキスタイル、それにナッちゃんの所属する3Dスペーシャルの4つに分かれています。食堂から一番近いファイン・アートのスタジオからどうぞ。


 


2番目はビジュアル・コミュニケーションのスタジオ。来年グラフィック・デザインやイラストレーション学部に進みたい学生が集まっています。
ちなみに壁に貼ってあるさまざまな紙は、学生それぞれの作品の進み具合やプレゼンテーション・ボードを公開するためのもの。こんなアイデアが学生とチューターがお互いに遠慮なく意見を出し合える仕組みを提供しているのですね。


お次はナッちゃんの3Dスペーシャルのスタジオへ。別校舎にあるのでいったん外に出て庭を渡らなくてはいけません。雨の日は面倒ね。途中のテラスには作りかけの彫刻や大きい木材が置いてあっていかにも美大。手前にとめてあるチャリ通学生の自転車までもが絵になるぅ。


と、隣を歩いていたナッちゃんが突如挙動不審に。「あっちから歩いてくる、あの人たちっ、うちのファンデの先生なんですよ。男の先生はいいんだけど、あの女の先生が怖いの。目が合わないようにしたいっ」ふーん、キミにも怖いモノがあったのか。


着きました。裏のドアから入ると地下に入る構造になっていてそこは各種ワークショップがぎっしり。ものものしい装置やうっかり触ると暴走しそうな機械が部屋の外に置いてあります。


目の前の階段を上ってにお邪魔しまーす。現在進行中のジュエリー作品のパーツを入れた箱も見せてもらいました。
 
 
 

学部生、大学院生のファイン・アート用スタジオはこの校舎に同居しているそうで、廊下にはただいま乾燥中の大判ペインティングが置いてありました。

なごみの空間
もとの校舎に戻って図書館をチェック。ふんだんに光が差し込む館内にはたくさんの雑誌が置いてあり学生の和みのスペースになっているそうです。「ファイン・アートとインテリアとテキスタイルの蔵書は豊かですがジュエリー系は貧弱です。なので、ジュエリー系が必要なときはセントマかLCFの図書館に行きます。リサーチは今でもオリエンテーション時代に習った方法でやっています」

 


カレッジショップ
次は学食の向かいにあるカレッジショップを拝見。やはり市場価格よりも安く画材が買えるのね。ちなみにチェルシーのカレッジショップは学外の一般人でもお買いものOKなんです。


お邪魔しました
というわけで、ここらでナッちゃんとお別れ。きょうはどうもありがとう。「どういたしまして。また来てくださいね。雰囲気いいでしょ、チェルシーって。ほんとに居心地がいいんですよね。みんなフレンドリーで学校楽しいし。私、生まれてから一度も学校が楽しいって思ったことなかったけど、チェルシーに来てはじめてそう思ったの。ここは一言でいえば‘学校に来たくなる学校’なんです」

学校に来たくなる学校か。学校って普通は行きたくないところ、サボるべきところの代名詞だよね。寮生活も楽しいようでほんとによかった。若い学生が育ってゆく姿を目のあたりにして調査員の目頭が思わず熱く。


おまけ・地味な正面玄関
食堂とカレッジショップの間にある通路から続く出入り口から外に出ると、こういう看板が立っていました。そうか、ここが正門だったのか。広々した中庭が目立ちすぎて気付かなかったよ。

投稿者 unicon : 2010年08月17日 19:41