留学体験記

【コース体験記】祝、初展示会:秋山貴子さんの偉大な第一歩

2013.12.03

セントマーチンズ短期コース

〜〜〜 赤ずきんちゃん、気をつけて! 〜〜〜

2013年10月24日、「カフェ展示会」の招待状がユニコンに届きました。

送り主の名前は「秋山貴子」さん。おおー、懐かしー!
秋山さんはね、今から7年前のある日、いきなりユニコン・ロンドン事務所に登場した〈飛び込み〉のお客さんで当時まだ19歳だったの。 

ツルピカ色白の童顔に乗っかっている ‘一途な’ キラキラ眼(瞬き少なし)。礼儀正しいせいなのか年寄り(私だよ)の威圧感に圧倒されているだけなのか、私が何か言うごとに「はい」「はい」と首をコクコクするだけ。なんか、採れたてのフレッシュ野菜みたい。素朴過ぎる!
とりあえずセントマのオリエンテーションに囲い込んだのだけど、オリエンテーションが始まって1週間後に再び事務所にやってきて「素晴らしいコースです!」と息せき切って言うの。何が?と聞くと、「私、コースの第一日目のドローイング授業であまりに感激して号泣してしまいました。私が求めていたのはこれだったって」

そりゃね、もちろんユニコンはオリエンテーション・コースが「超お得なお買いもの」だとマジで思っているし、だからこそPRしているんだけど、そこまで感激するか、フツー?(と口に出かかったけれど)感激を新たにしたのか眼元を赤くしている秋山さんを見て、さすがの厚かましい私も「いや、そこまで喜んでもらえて何と言っていいやら」と妙に照れてしまったことを覚えているわ。感受性が人並外れて濃い赤ずきんちゃん。「採れたて野菜」のイメージが変わりました。

秋山さんはその後セントマ のファウンデーションを経て同大の学部課程(ファインアート)に進んだのだけれど、毎年の授業料を大学に直接払うことを固く拒み続けたのね。ユニコン経由で払うと手数料を乗せなきゃいけなくなるから直接大学に払えと何度言っても「父がクレディットカードは信用できないって言うんです」と言い張るの。
彼女がユニコン事務所に姿を見せるたびに「ああ今年も支払いの季節になったのね。そして“父”は相変わらずクレディットカードを信用していないのね」と年月の流れの速さを味わったものでした。

その秋山さんがちょっとマイナーだけど〔吉祥寺〕のカフェで初展示とは! しかも留学時代の友人との合同展示で、その友人もユニコンの昔のお客さんだというじゃない。
これは行かなきゃね。

数日後、ユニコン視察団(2名)が着いたのは吉祥寺の駅から徒歩数分にある小さなビルの2階のカフェレストラン。「いらっしゃいませ」と迎えてくれたお店の人に愛想笑いを返しながら辺りを見回すと、四方の壁にこじんまりした作品群が飾ってある。おお、これか。
秋山さんはちょっと遅れてくると言うので「まーね、あーゆー田舎から出てくるんだもん、しかたないわね」と憎まれ口を叩きながら四方の壁につましく行列している絵をチェック。

ラッパの絵がいっぱい。それと植木鉢っていうかプラントの絵もいっぱい。
ラッパが秋山さんでプラントが友人(平山真澄さん)。
でも、あくまでラッパとプラントの行列。
この一連のラッパとプラントにはどんなメッセージがあるのかしら。

言うべきコメントが見つからなくて視察団は互いの芸術素養の貧しさを心で罵り合いながら無言に。
まー、ファインアートだし、セントマだもんね。本人が来たら説明してもらいましょう。

やがて合流した貴子さんと久しぶりの再会を祝い、まずは乾杯。アルコールはダメなんですという貴子さんはそっちのけで昼間だと言うのに視察団はボトルワインをほとんどラッパ飲み(ほぼオヤジだよ)(ちなみにランチ定食は濃いめの味付けの‘豚の角煮どんぶり’であった ★★)

まずは秋山さんの作品解説(本人による)をどうぞ。

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‘空を見上げてごらん。眼には見えないラッパのような管が、君の眼からするする延びて、
      天に向かって広がらなかった?そして天が一杯、君の眼に流れ込みはしなかった?’
                          (安部公房「デンドロカカリヤ」より)

「多くの人がそうであるように、私もまた子供のころ空想世界と現実世界を自由に行き来する子供のひとりでした。それが成長に伴い、不思議と現実世界に留まる時間が長くなっていきました。これが大人になるということなのかもしれません。しかし時に、“眼には見えないラッパのような管が、天に向かってするする延びて、天が一杯、眼に流れ込むような瞬間”に出会う事は無いでしょうか?

私は人によって創作されたファンタジーやおとぎ話といった虚構の世界がとても好きです。それは、大人になると子供っぽいと笑われてしまうような虚構の世界の中にこそ事実を超えた真実を垣間見ることができるように思うからです。今回の作品はだいぶ荒削りではあったものの、“自然と人と人工とファンタジーが共存する世界”そんなことに思いを巡らせながら私の中に落ちて来た言葉のかけらを純粋に集めて編んで形にしたものです」

ユニコン:なるほど、安部公房の詩からインスピレーションを得たのね?(えーっ、安部公房と来たか。しかも‘詩’だとぉー!行きがかり上なるほどとは言ったが、若いときに安部作品に挑戦したものの理解及ばず挫折した過去を持つユニコンスタッフは茫然とするのみ)

「はい。何の変哲もない日常のなかのちょっとしたきらめき、そういったものが好きなんです。この詩もとても好きでそのイメージがずっと頭の中にあってそれをそのまま描いてしまおうと。言葉で説明しようとすると難しくて、絵をひとつの言葉として描いています。
言葉にならない言葉、言語になる前の言葉を描くというか、作品もひとつの言葉として作っています。
なんというか、現実にあるけれど現実にない、現実にはないけれど現実にある、ある意味、超現実的な。事実ではないかもしれないけど真実であることを表現したいです」 

ううう、覚悟はしていたけれど概念的すぎて難しい。こういう仕事をしているくせに、私、わかりやすい言葉で具体的に説明されているものしか理解できないんだよね。安部公房より伊坂幸太郎が何倍も好きだし、東野圭吾はその何十倍も好きだし。

「私は真逆ですね。言葉で表せないものが好きというか。自分のなかには色々あるんですけどね。その色々あるものをそのまま形にしているだけです」

(超現実的な生き方をしている視察団にはなかなか難解な時間が過ぎた。言葉ってむずかしい…)
ところで今は何をしているの?(しかたなくちょっと話題を変えてみた)

「発達心理学とか幼児教育にも興味があって、今は茨城のプレスクールで英語を教えています。
私、セントマ時代に『作品についてうまく言葉で説明できない』という悩みをチューターとよくしていたのですが、『言葉にならない言葉を表現したい』と悩む私に『発達心理学を勉強してみたら?』とアドバイスしてくれたチューターのことばがきっかけです。
発達心理学や、あと口承文芸にも興味をもって調べました。子供の言葉になる前の言葉は面白いなと思いました。
あと自然的に発生した物語も好きです。ひとつの物語を通して、書かれた通りのストーリーを楽しむことはもちろん、それ以外にもモラルやノウハウを親から子へ世代を超えて伝承できるという機能をもった物語、古典的にずうっと続いている物語には興味があります。どれも言語を超えた世界観みたいなものが共通していると思います。この分野は調べてみるととても面白くて、書籍からでなく実際に知りたいと思ってスクールで働き始めました。
純粋な、言葉がうまくしゃべれるようになる前の幼児の言語に実際に触れることができておもしろいです」

東京に出る予定はあるの?

「お金を貯めたら東京に出たいですね。アートをするには、東京がいいですよね」

多分。そして売れてお金になるということも大切。社会の認知度を高めるということなんだから。
ロンドン芸大のFine Art出身の先生も言っていたわ、「アーティストはもっと社会性を身に付けて自分を売る努力をすべきだ」って。秋山さんを目の前にして言うのもナンだけど、ファインアーティストってそうした社会性に欠けている人が多いじゃない。
生き方も価値観も違う人たちで構成されている世の中の人たちにわかってもらうためにはアーティスト自身も努力が必要だと思うの。だって仲間内だけで理解しあっても発展性が無いし、わかる人にわかってもらえばいいというのは「グローバル」という宿命から逃れられない21世紀に生きるアーティストの考え方としては傲慢だと思うのよ。

「完全にそうですね。ファインアーティスト達はシャイな軍団なので。ファインアートはアーティストのためのアートだって言われちゃっています」

イギリスは新しい才能を世界に輸出するのにとても熱心な国だから若いアーティストが発掘されやすいけれど、日本のアート業界の人たちってすでに名前が売れていて金になりやすいアーティストにしか興味を示さないでしょ。だから無名なアーティストたちは自分から発信していくしかない。たとえば、稚拙なアイデアだけれど、「ブログ(っていうの?)」みたいな現代コミュニケーション武器を駆使して国内外のコンタクトを増やすとか、ロンドン芸大の卒業生グループと組んで集団力でアピールするとか。

「そうですね、他のカレッジの卒業生たちとも組んで10人くらいで大きな展示会をやりたいね~という話が今あります」

アーティストって金の計算が弱くて(だから‘純粋’と表現されがちだけど)それはいけない。お金の計算ができる営業能力のある人と組んで活動しなさい。実はセントマはここ数年前からそうした方面の大学院課程にめちゃ力を入れてるのよ。
‘MA Innovation Management’とか‘MA Creative Practice for Narrative Environment’ とか、アート実技とは何の関係も無いマネジメントのコースなの。で、受講生のほとんどが美大以外の出身の社会経験者で占められているのが特徴で、早い話、ビジネス能力に乏しいアーティストと企業プロジェクトの橋渡しをできる人材を育てようってことらしいわ。
で、入学基準のIELTSスコアが何と7.0よ。そんだけあったら(フツー)ロンドン大学かオックスブリッジに行くだろって思うんだけど、これがもう大人気。今はそういう世の中なのね。
だからね秋山さん、これからの世界に自分の足跡を付けようって言うのなら、アートは好きだが‘創る側’ではなく‘売る側’で活躍できてカネの計算に優れた人材を取り込まないと。そのためにはまず合コンに目いっぱい参加しないとね。
(カネが絡んだ話となると俄然饒舌になってしまうユニコン視察団なのであった)

「はい、地味にがんばります。ありがたいことに、セントマ時代のチューターがとても優しい人で、卒業後も色々な人に私の作品を見せてくれていて今でもメールが届くんです。それはとても助かっています。あと、絵本を描いてって頼まれているので、そういうこともやっていきたいなーと思っています。
次回は小さくても作品を出して、ま、こっからですかね」

だめよ、地味一筋じゃ。ユニコンのHPも利用してくださいね。

おーっと。この展示会は貴子さんの友人の平山真澄さんとの合同展示会であった
(ごめんね、平山さん)。
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平山さんはキャンバーウェルのファウンデーション修了後、チェルシーカレッジの学部課程(ファインアート)に進み、秋山さんと同時期に卒業しました。

当日のカフェレストランでお会いすることはできなかったけれど、後日、例の「プラント」作品についてのコメントを送っていただきました↓

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「私は自然・人・人工物が現代社会の中でどの様に共存しているかという事に興味があります。イギリスから帰った後、東京の街に敷き詰めてある植木鉢に眼が留まる様になりました。切り取られた一部の自然が人工物と共存する事を知る事によって自分の興味を深めていけそう…と思ったことからこの作品づくりが始まりました。
今回の展示ではひたすら描いた植木鉢達を展示しましたが、この経験とアイデアを更に育てていきたいと思っています。

異国での生活と勉強は大変だったけれどかけがえのない経験をしたと思います。
大学の授業では週1回のクラスやレクチャーと選択授業を受けながら自分の興味の向く方向にどんどん挑戦していける自由な時間と空間がありました(その分、時間の自己管理を求められたけれど)。

チェルシーには哲学・理論を学びながらディスカッションを通してお互いを高めていくという独自の方針があります。興味や関心がある事に対して「それはなぜ?」と問いかけつつ、そのアイデアを更に進展させて行くという校風です。

私はそれまでは興味や関心があっても「なんとなく」で終わらせてしまい、考え抜くという習慣がありませんでした。それがチェルシー時代を通して多少なりとも習慣づけられたように思います。
(物理的には)あまり作品は残せませんでしたが、自分の興味の的が何なのか、どんな形の制作プロセスに心惹かれるのかということを知ることができました(日々変わる部分もありますが)。それが卒業後の今、とても役立っています」

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