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第09話:ロンドンに心残して

2002年8月。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでの1年が終わりに近づいていました。「このままロンドンに残りたい、でも」の葛藤を心に、福子、君はどうしようと言うのだね?

●●● I left my heart in London ●●●
~~福子、最後の悪あがきか~~

そんなこんなで無事卒業制作を終え、あとは日本に帰るばかりか…という時に至っても「日本に帰るかどうか」について悩んでいました。もともと日本の大学はツマラナイと思っていたし(つまらないから留学してきたのだが)、ロンドン楽しいし、もっとアートやりたいし(実はこっそり幾つかの英国大学に出願して学部からのオファーを隠し持っていたのだ)。

当時のユニコン事務所の奥には「学生広場」みたいなスペースがあり、あちこちの学校に散っている多くのユニコン学生の溜まり場になっていました。どこからか大量に仕入れたどん兵衛やUFOが冷蔵庫の上に積まれてあって、食べたい人はその脇においてある貯金箱(ユニコン社長が博多駅の売店で買ったという招き猫)に代金を入れ、自分でお湯を沸かして食べるシステムになっているのが大変ユニークでした(しかも、かなり繁盛していたらしい)(男子学生の多くはどん兵衛をオカズにUFOを食べていた)(醤油味に飢えてる学生を狙い撃ちにしてユニコン社長がかなりな押し売り営業していたらしい)。

「帰りたくない」思いで悶々としていた私は、ある日そこで、やはりどん兵衛をすすりながら「ニホンの大学なんて辞めたい、辞めたいっ、辞めてやるぅ~」と、あたり構わず逆上。他にも客(多数のユニコン学生)がどん兵衛にかじりついている中でわめき散らす私がよほどうるさかったのか、ガメつそうなユニコン社長が言った言葉は意外にも、「3年分も学費払った挙句の中退はダメある。そこまで払ったのなら日本の大学出るしかないある」でした。

「おまえね、今、学生でしょ。留学生っていうのはこの国にとって所詮お客さんに過ぎないのよ。確かに今はロンドンにいて楽しいだろうけど、でもそれは夢なのよ。キミは今、夢の中にいるわけ。そりゃ楽しいよ、夢だから。でも夢はいつか醒めるもんなんだよ。だったらダラダラと醒めるのを延ばしちゃダメ。引っ込みがつかなくなるよ。今回は1年の計画で来てるわけだし、なんだかんだでお前も学校行かないままに自動的に3年生になってるわけだろ?これが大学の1,2年ならむしろ中退を勧めるんだけど、ここまで来たら卒業するしかないでしょう。ボクは思うのよ。これまでの人生で積み上げてきた経歴は無視できない事実なのだから、それは尊重しなくちゃいけないって。たとえどんな不本意な選択だったにしろ、今までのものをぜぇ~んぶ捨てて、1から新しくやり直すってことには賛成しかねちゃうんだよね。」

耳が痛いけれど「た、確かに…」と思った。そういわれてみると、自分では意識してなかったが、これまでの人生って全て自分自身の選択で造られて来たってこと? 「親が」「先生が」って言い訳してきたけど、それを鵜呑みにしてここまで来てしまったのは自分自身?だったら半分以上の責任は自分にあったということ? おーし、わかった。ならば、ちゃんとケジメをつけよう、と日本の大学に戻ることを決意しました。

LCFでの(てゆうか、ロンドンでの)一年はホントにとっても楽しかった。いろんな意味でいろんなことを学んだもん。で、何といっても最大の収穫は「自分の目で」モノを見られるようになったこと(前にも増して単に態度がでかくなっただけ、という説もあるが)。

外国にいると、日本で日本人だけの中にいた時気づかなかったことに気づかされます。まず、自分が「ガイジン」という立場になります。それも、ルックスの近いアジアじゃなく、ぜ~んぜん違うヨーロッパにいるので「超ガイジン」です。ぼーっとしたまま分かることなんて1つもないし、たまには差別を受けるし、何もかも日本と勝手が違います。「どうするか」をいちいち自分で考えなくてはいけません。自分はどうしたいのか? ていうか、自分って何なんだ?と、いやでも自分を見つめざるを得ません。今までぼやけていた「自分」というものの輪郭がはっきりしてきます。

それが留学の最大の収穫であったのならば、留学のトピックは別にファッションでなくても良かったのかなぁー、と思わないでもありません。LCFのおかげでアート学生同士のカジュアル英語にはずいぶん慣れたけど、バリバリのお勉強系(ロンドン大学なんかでやってるアカデミックな英語コース)で留学している友人のようなしっかりした高尚な英語はLCFでは習えませんから。
選択を間違ったのか?アカデミック風コースを選ぶべきだったのか?(アカデミックって雰囲気かっこいいし)と思うことも。う~~ん…… はっ、なんですって?デザイナーになる話はどうなったのかって?そんなとんでもない図々しいこと、わたしいつ言いましたっけ?

まあ私も若かったし、アート&デザインの勉強で「モノの見方」をひたすら訓練する経験を積んで人生観が豊かになったのは確かで、あの時点であれをやれたことはヤッパよかったな、と思います。

2002年8月。福子、LCFキャンパス前のオックスフォード・ストリートの石畳に「いつかぜったい戻ってきてやる」とリターンズを誓う。


☆★ 福子さんにインタビュー ★☆
  ■心に残る一冊:夜間飛行
  ■好きな作家:村上春樹
  ■心に残る映画:ニュー・シネマ・パラダイス
  ■好きなブランド:zucca
  ■クールな人:自分の祖父
  ■今度生まれ変わったら:男に生まれたい(顔が良くて頭も良い)
  ■ロンドンで最も通った食堂:チャイナ・タウンの「赤い店」
  ■留学時代の得意料理:和風パスタ
  ■どこの外国人が最も付き合いやすかった?:台湾人
  ■ホームスティの感想:なんだかんだで楽。
    いざと言うとき頼れる知り合いがロンドンに出来たのは大変心強い。

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