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第27話:熊子、揺れる心

グラフィック・コースに進む予定で渡英してきた熊子さん。セントマでの講習が終盤を迎えるころになりました。計画通りグラフィック・デザイナーを目指してゼロからの出発点に立つのか?

2005年3月:揺れる心
セント・ジャイルズ校と並行して取っていたセントマのパートタイム・コースは順調に回を重ねていましたが…あるとき気がついてしまったのです。
「あれ? グラフィックのファウンデーション・コースの再面接を受けるためにセントマに通っていたはずなのに、作品増えてない…」
そうです、ポートフォリオというのは、自分で空き時間を利用して量を増やさなくてはいけないのです。
ところで、セントマのコースには将来UALのフルタイム・コース進学を考えている人がたくさん通っていました(って、私もそうだったんだが)。そのため、コース後半の2週間はチューターがポートフォリオのアドバイスをしてくれ、他の学生の作品を見る機会に恵まれました。そこで自分の作品との差に愕然。

やがて週を追うごとに、「本当にグラフィックが好きで勉強したいのならこのコースをもっと楽しんでいるはずなのに、コンセプトやアイデアを考えることを重荷に感じている時間が結構長いかも…」と考えている自分を発見。そしてコースが終了する頃には(いや実はもっと早い段階で)「グラフィックといっても自分にとっては趣味レベルの『好き』に過ぎなかったのかも。毎日勉強したいワケでもこれで食べていきたいワケでもないし」とはっきりわかりました。

今更悩む31歳(おい、)
グラフィックじゃないとしたら何をしたらいいんだっ?と超プリミティブな問題にぶつかったワケです。ここで血迷った31歳は本屋に走ってHot Coursesとかいうロンドンでのお習い事コースを紹介している雑誌を購入しました。「グラフィックじゃなければ今流行りのアロマテラピーかな」と、これまでの人生と何のゆかりも興味があるわけでもないコースを物色。
この悩みをホスト・パパ&ママに打ち明けたところ、「日本でお世話になった会社のブランチがロンドンにもあるって言ってたでしょ?そこに行って相談してみたら?」とアドバイスをしてくれました。

アカデミックにターン?
という次第でユニコン・ロンドン事務所へ。この日対応してくれたのは(自他共にロンドンで一番口が悪いと太鼓判を押されているらしい)女性スタッフでした。
「やっぱ今更アートじゃないのかなと思って…」と私が口を開くや否や、「そーでしょそーでしょ。そろそろ気がつく頃だと思っていたのよ。自分から言い出すのを待っていたわ」とアッサリ。そして、「あなた、アートではなく、アカデミック系で大学院行かない?」と来た。
「へっ?無理ですッ」アカデミックなど考えたこともなかった私は驚きながらも、とっさに答えました。日本では(一応)大学に入って真面目に通いはしたが何を勉強したか覚えてないし、専攻(経済学)を活かした仕事に就いたわけじゃなし、その仕事だって手に職とは無関係な事務だったし。

いい男に出会いたければ
彼女が私にアカデミックへの転向を勧める理由は次のようなものでした(彼女の直球のセリフ、ほぼそのまま)。
◆その歳でゼロからアートを始めるのは負け勝負に打って出るようなものよ。
◆アートを始めるにはもっとピュアな心が必要よ(7年も社会で揉まれて賢くなった分計算高くなって心が汚れているでしょ。ま、大人になるってそーゆーことだけど)
◆大学院課程はもちろんタフなコースだが、アートと違ってやった分だけ確実にreward(英語力)が残るし、履歴書上わかりやすい学位でしょ。大体、あなた(ってゆうか、日本人に)足りないのは自信なのよ。今はとても自分にはムリだと思っているだろうけれど、やり始めたらあなたのようなしぶとい性格の人は必ず最後までちゃんとやるのよ(カネが戻ってこないとなれば、特にね)。大変な分、やり終えたときに得る自信はとても大きいし、その自信こそが長い人生のパワーになるわ。大体、「一応大卒ですが」っていちいち断りを入れなきゃいけない学歴って納得できないでしょう。長い人生のたった1年くらい、死ぬほど勉強してみない?堂々のシティ大学MA卒を目指して、さ。
◆(これまでの人生、熊本ではいい男に出会わなかったのでしょう)(出会っていたら今ここに居るわけないものね)この先いつかいい男に出会いたいという望みを持っているのなら、いい男が属する世界に脚をかけられるような女に自分がレベルアップしないと出会いのチャンスは一生ないわ。シンデレラだって、いつものボロ服すっぴんで舞踏会に出かけていたら絶対王子にシカトされていたわ。てゆうか、会場にも入れなかったわよ。
◆あなたのように元々欲が薄いつましいタイプはこのまま田舎に帰ったら多分そこらの会社に無抵抗に就職して、出入りする業者さんや営業マンと合コンで仲良くなって、まぁこの辺でいいかと手を打って結婚して子供産んで、タマゴや洗剤が10円安いスーパーを走り回る生活に安住するようになるのよ。

ま、訛っているとは言え、私も伊達に年をとってきたわけじゃないし、そうそう簡単に口車に乗る馬鹿ではないので、「大学院?ないな…」と心の中で軽く否定しながらふんふんと聞いていたのです。しかし聞いているうちに、せっかく大決心をして会社辞めて渡英してきたのに手ぶらで帰るのは確かに口惜しい、それにどうせ大金を使うのならラクなものより大変でもやりがいがあるものの方がいい、それになんだか大学院でもやれそうな気がしてきたのでした。

金繰りの算段
その気になったはいいが、大問題が。カ、カネが足りません! 私が当初London Institute(現UAL)のコースに行こうと思ったのは、学費が割りと安いのと3ヶ月間の英語コースがおまけで(タダで)ついてくるというのも大きな理由だったのです。それが、アカデミックの大学院コースともなると授業料が大幅に跳ね上がるし事前の準備コースも超高くて、これじゃどうムリしても鼻血も出ません。と、あれこれカネの算段をする私の頭の中をレントゲンしたかのように、かの女性スタッフが「大学院の席は1年保留できるから、準備コース終了後は一旦帰国してカネ貯めて大学院には来年戻ってくればいい」という裏技を教授してくれた。なるほど。パンフレットをもらってその日は帰りました。

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